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「グリ」との20か月  〜 ある猫の半生 〜


甘えん坊「グリ」のお話しです。

リボンレイやハワイアンキルトとは関係ないお話しですが、猫が大好きだったしずかに免じてここに掲載するのをお許し下さい。

 

 出会いはこうして

2004年の8月、14年間一緒に暮らしてきた猫が亡くなり、その四十九日が過ぎた頃、淋しくて次の猫を探し始めました。 我が家は血統書つきの高価な猫には全く興味はなく、もっぱら野良ちゃんや身寄りの無い猫の世話をしてきました。


東横線の白楽駅の近くに、もう40年以上も前から身寄りの無い犬猫のために献身的な活動をしている神奈川県動物愛護協会というボランティア団体があります。  それまで一緒に暮らしてきた猫も、ここから里親として貰いうけてきた猫でした。  その愛護協会に、以前から気になっていた猫がいました。


それは 「面倒を見きれなくなったのでお願いします」と置き手紙をつけて愛護協会の門前に捨てられていた猫。 検査したら、不治の病気である猫白血病の陽性反応が出たのだそうです。接触感染する病気なので、他の猫達と一緒にするわけにいかず、 それ以来2年間も狭いケージの中で暮らしていました。

10月のある週末、妻が「どんな猫か良く見てくる。病気のことも聞いてくる。いきなり連れて帰るようなことはしない」と言い置いて娘と愛護協会に行ったのですが、2時間ほどして戻ってきた車の トランクルームには、ちゃんとこの子を入れたケージが積まれていました。「○さんなら安心して里親になって貰える!」と、協会のお医者さんもスタッフも大喜びで、引き取らざるを得ないムードに負けた のだとか。(最初から覚悟していたくせに・・・・笑)

2年間!!も 、周囲をステンレスの壁で囲まれた50センチ四方くらいのケージの中だけで過ごしてきた彼女。泣けるじゃありませんかぁ。
部屋に入れても、なかなかケージから出て来ず、そろりそろり出てきたと思ったら、私がゴロ寝しているベッドに すぐに飛び乗ってきました。フカフカの羽毛布団の感触に感動したらしく、ゴロゴロ喉を鳴らしながら、その柔らかさを楽しんでいるかのように、何度となくドタッと倒れ込むように寝転がって ました。きっと彼女の生涯で最高の瞬間だったんだろうなぁ。これから幸せになれよぉ! ぐすん。

・・・ということで、病状が悪化して面倒見られなくなるまで我が家で暮らすことにな りました。発育不良で、 背骨がちょっと曲がっており、後ろ足はエックス脚。器量悪くてオツムもちょっと弱いミゼラブルな子。独特なグレーの毛をした猫なので、グリ(フランス語で灰色の意)と名付けました。

 

 家に来たのは良いけれど・・・

その後の何夜か、グリは 私の枕で寝ました。頬にべったりと寄り添って。やっと眠れたと思ったら、顔をべとべとに舐められて目が覚めてしまう。決して怒ったり反抗したりしない、抱っこ大好きの、とっても大人しい子です。 胸に乗せたり抱いたりしていると、ゴツゥン・スリスリと、ひっきりなしにこちらに頭をぶつけ、精一杯甘えてくる可愛いやつ。これまでの彼女の境遇と不治の病気のことを思うと、涙が出ました。

でも、しかし、ハウエバー ・・・、やがて分かったのですが彼女は「お漏らし」をしてしまうのです。
初日からちゃんとトイレを使ってくれていたので安心していたんですが、いつも彼女が寝ている場所にタオルを何枚も重ねて敷いてい たら、いつのまにか臭いがついている。ひょっとして!と思って、私の枕カバーを外してみたら、ど真ん中に大きなシミがあった・・・。鈍感にも、ずっと気付かずに頭に匂いを染みこませて出勤していた私でした。

このお漏らし、意識せずに自然に出てしまうらしく、 寝転がっている私の胸の上に乗ってくつろいでいる最中に、じゅわっと出てしまうこともしばしば。妻は「こんな状態が続いたら面倒を見きれないから愛護協会に返す!」などと鬼のようなことを言い出すし。我が家に来て数日後には頭をかかえてしまいました。一時的なものならと願って、膀胱炎の薬を飲ませてみたのですが、目立った変化なし。2年間もケージの中で暮らしたので、 お尻の括約筋の機能が衰えちゃったのかなぁ、とも思いました。
ナプキンでおしめを作ってやろうかと思ったけれど、考えてみたらトイレに行っても自分で外せないから、このアイデアはボツ。

 

 救急病院へ

家に来て一ヶ月ほどたったある 晩、グリの具合が悪くなって大騒ぎ。 私は眠剤を飲んで横になり、眠りに落ちる寸前だったのですが、娘が猫の異常を発見して騒ぎ始めました。大きく開けた口から舌を出し、泡を吹きながら、普段出したことがない、大きな声で ワオー・ワオンと啼き始めています。足がふらつくのに、やたら歩き回ってはドタっと倒れて苦しそうに痙攣する、の繰り返し。眼も虚ろで見えていない様子。

手元にあった膀胱炎用の抗生物質が 少しは効くようなので、毎日1/4錠を飲ませていたのですが、ネットで調べたら、まさにその薬の副作用とされている症状を呈しています。どうやら、その日に家内が1/2錠に増量してしまったのが原因だと思われま した。

娘が近くの動物病院に電話したら、横浜夜間動物病院というのを紹介してくれました。もう夜中の1時を過ぎていたけれど、連れて行くしかありません。病院に着いた頃は、少し錯乱状態も治まっていたので、点滴を注入し、入院はさせずに帰宅しましたが、超音波検査をしたら腎臓が肥大していることが判明。腎臓に膿瘍ができ、膀胱を圧迫しているのだとか。お漏らしも、これが原因のようでした。 これだけ肥大していると、腎機能は半減しているはずとのこと。摘出するしか治療法は無いのだそうです。いずれは腎不全と尿毒症に・・・。

翌日、動物愛護協会に連れて行ったら、腎臓摘出手術はとても危険で、健康状態からして恐らく耐えられないだろうとのこと。白血病の陽性反応はあっても、まだ発病していない、と いうことで貰いうけてきたのですけど、既に発症していたんですね。動愛の獣医さん達も、良く調べずに引き渡してしまったことを散々謝っていましたっけ。

お漏らしの原因は病気のため。だから、叱ってしつけようとすることは一切せずに、ひたすら優しく扱ってやることにしました。出てしまうのは仕方ないことなのですから。

 

 健康回復?

来た時はモップにこびりついた埃みたいな毛色だったのですが、わが家に来て存分に日の光を浴びるようになってからは毛のツヤが良くなり、肥えてきた彼女です。

ちゃんとトイレにも行くし、爪は決められた爪磨きでしか研がない。でも、以前の飼い主によほど邪険に扱われていたらしく、いつもビクビクおどおどしています。 ちょっと叱ると部屋の隅にうずくまってイジイジしながらこちらを見つめる彼女でした。強くぶたれて鼓膜が破れたのでしょう、耳も遠いのです。何も悪いことしてないのに、こんな病気 を背負って生まれてきたなんて、ほんとに不憫な子です。


段ボール箱で居心地の良いベッドを作り、 私の枕の隣に置いたら、昼も夜もそこで寝ていました。寒くなれば、ふかふかのクッションに携帯カイロを乗せ、ペット用のゼリーシートを敷き、さらにタオルを敷いてお漏らしに備え る毎日。寝室に陽の当たる朝方はのびのびとベッドの上に寝転がっていました。でも、お漏らし対策として、私たちのベッドは完全にビニールシートで保護しなくてはなりませんでした。  使っていない時は、机の上やキーボードにも布やペット用のゼリーシートで覆いをしなくてはなりませんでした。とても面倒でしたが、やがてそれがすっかり日課になり、こちらも慣れていきました。

 

 ひも付きに

症状が進んでいるのか、だんだんお漏らしがひどくなり、 ビニールの下から私のベッドにもぐって中を汚してしまうので、4-5ヶ月めからは、とうとう私達の寝室に3メートルくらいの長さの紐でつなぐことになってしまいました。可愛そうなんだけど、仕方ありません。 ケージの中に比べれば、はるかに広い世界だし・・・。

ふつう、猫は紐につながれるのを嫌がるのですが、暴れるでもなく、おとなしくしているグリ。  足に紐がからまっても、サッと要領よく抜け出す、妙に紐慣れした様子。 ひょっとして以前の飼い主にも紐でつながれていたのかも知れません。

お天気の良い日は、朝から晩まで二階のベランダで紐に繋がれたままくつろいでいます。  朝起きれば、「早く出たい〜〜〜」とビイビイ啼いてせがむようになりました。 自由にしてやると、ぴょんぴょんスキップしながらベランダに出て行って日なたでゴロゴロ転がって喜びを表しています。私、猫のスキップは初めて見ました・・・。 紐につないで家のまわりを散歩に連れていくと、最初は珍しいものばかりでビクビク。  やがて「外に出して〜〜」とおねだりするようになりました。

きっと、彼女にとってはとっても幸せ な日々だったんでしょうね。 家に来た当初はいじけた顔つきをしていましたが、やがて目が丸く、明るくなり、どんどん可愛らしい顔になっていきました。猫も環境によって表情が変わるものなんですよね。それに、日光を浴びながら運動量が増えたせいか、お漏らしもずっと少なくなっていったのです。でも、治る病気じゃないので・・・。

こうやってパソコンに向かっていると、うるさいくらい膝の上に飛び乗ってきたグリ。 でも、たまに膝の上に「じゅわ〜〜!」。 余りにもしつこいので邪険にしてしまったこともあったっけ。ご免なぁ。

短い命なんだろうけれど精一杯楽しく過ごさせてやれれば、という思いとともに、こうして20ヶ月が過ぎていきました。

 

 さよなら

その時は突然やってきました。

腎機能が停止したのでしょう。おしっこが全く出なくなり、何も食べず、水も飲めなくなってからの五日間、グリは頑張りました。食べたり飲んだりできなくなったのは、ひどい口内炎を起こしていたためでした。口内炎は白血病に特徴的な症状です。血の混じった臭いの強い涎が ひっきりなしに出て、拭いてやろうとすると、悲鳴をあげて痛がるのです。

三日目には机の上に飛び乗れなくなり、最後の日の夕方にはダンボールの台の上にも上がれなくなり、夜には全く立ち上がれなくなりました。腎臓が腫れているのでしょう、痛がるので体をさすってやることもでき ません。 痛みがひどいのか、時々悲鳴をあげています。 それを見守りながら、そっと頭を撫でてやるのが精一杯。 声をかけると健気にも血が流れ出ている痛む口を開いて答えようとしていました。

夜中の2時半ころ、さすがに眠くなり、わきで眠ってしまった私でしたが、5時にトイレに起きた時にグリを見ると、まだ息をしています。 頭を撫でながら声をかけると、つぶらな目を大きくあけてこちらを見上げ、口をあけて「ふう〜〜っ」と大きく息を吐きました。 それが最後。

きっと、私が目覚めるのを待っていて、「ありがとう」と言ってくれたんですね。

2006年6月23日 グリ没 享年?歳

 

 その後

外出先から家に戻ると、紐が絡まっていやしないだろうかと、いつものようにまず彼女の様子を見に行こうとしている自分に気付きます。 家内も娘も同じことを言っています。 足元に置いたMacのハンドルに紐をつないでいたので、席を離れる時は椅子に紐が絡んでしまわないよう、グリが届かないところに椅子を必ず移動していたのですが、ついつい同じことをしてしまいます。 彼女が居たときは面倒くさいばかりだったのですが、いなくなってみると、パソコンや机の上に「おもらし対策シート」を被せる必要が無くなったのが淋しく感じられます。 世話が焼けたぶん、家族の日々の生活の中で大きな存在になっていたんですね。

こうした小動物は、言葉が通じないぶん、私たちの方にこもる思いも強いのではないのでしょうか。 犬を飼える環境ではなかった我が家では、これまでハムスター、兎、そして何匹かの野良ちゃんや庭猫、家猫の最後を看取ってきました。 それぞれが個性にあふれ、素晴らしい思い出を残してくれました。 亡くなる時は悲しいけれど、それ以上に安らぎと楽しさを与えてくれたのも彼らです。

病を背負って生まれてきたグリでしたが、「可哀想に」とは言いますまい。我が家で生涯で一番幸せな20ヶ月を送り、我がままに過ごしてくれたのでしょうから。

グリが亡くなったことを早速しずかの墓前で報告し、「あとをよろしく」と頼んできました。 猫が大好きで、グリのことも良く知っていたしずかのことですから、きっと向こうで相手をしてくれていると思います。

 

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